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爪白癬(=爪の水虫)の新規治療と医療費の動向 宮地秀明

2024.08.14

爪白癬(=爪の水虫)の新規治療と医療費の動向

当センターの宮地秀明が主体となって実施した研究の論文をご紹介します。

 

研究の背景と方法

爪白癬(=爪の水虫)は主に白癬(はくせん)菌という真菌(カビ)が原因となる一般的な病気で、日本人の約5–10%が罹患する一般的な病気です【参考文献1】。近年、外用薬と内服薬それぞれ新しい治療薬が登場し、診療ガイドライン【参考文献2】も公開されました。しかし、日本全国で実際にどのように治療が行われ、医療費がどの程度かかっているのかについて、これまで詳しいデータが不足していました。

 

そこで本研究では、全国規模の診療情報を把握するために、厚生労働省が構築している匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)を活用しました。NDBには日本全国の保険診療の98%以上の情報が匿名化されて収集されており、適切に活用することで医療に関する様々な分析に利用することが出来ます。当センターには医療ビッグデータの専門家が複数在籍しており、過去にはNDBに関する「医療ビッグデータを活用した研究セミナー」を開催した実績があります。医療ビッグデータの取扱いに長けた当センターの強みを活かした研究を実施しました。

 

研究結果の概要

2014年に新しく発売された爪白癬の外用薬の処方が急速に増加し、特に高齢者で多く処方されていることが分かりました。一方、外用薬の処方量の増加とは反対に、従来から利用されていた内服薬の処方は減少していました。2018年に新しい内服薬が登場したことや、国内外の診療ガイドラインで内服薬の処方が推奨されていることも反映して、2019年以降は内服薬の処方量増加と外用薬の処方量の減少傾向が見られました。

 

治療効果や医療経済性の観点から、爪白癬の治療として推奨される(第1選択)薬剤は内服薬であるものの、本研究で依然として多くの患者さん/医療者が外用薬を選んでいることがわかりました。実際、内服薬と外用薬では爪白癬の完治率に大きな違いがあることが知られています。また、新しい外用薬が発売された2014年からの2015年にかけて薬剤費が2倍以上に増加し、2019年には年間で約360億円に達しており、より適切な治療薬の選択が望ましいことを示しました。

図:年度別の爪白癬治療薬の薬剤費の推移
本研究で検討した治療薬に関する年度別の薬剤費の推移を示します。青い棒グラフは4薬剤の総薬剤費を表しています。
(本研究の論文の図を改変して作成、日本語に翻訳)

 

本研究のまとめ

本研究から、日本における爪白癬(=爪の水虫)の治療の現状と課題が明らかになりました。新しい治療法の普及により、治療の選択肢が広がる一方で、診療ガイドラインとの乖離や医療費の増加といった問題も浮き彫りになりました。今後は、より効果的、かつ、コストパフォーマンスの優れた治療法の選択が求められると考えます。

本研究は日本皮膚科学会の公式英文雑誌「The Journal of Dermatology」誌に掲載されました。オープンアクセス(読者に無料公開)ですので、原文をお読みになりたい方は以下のリンクからご覧になってください。

本研究の論文情報

表題:Impact of new antifungal medications on onychomycosis prescriptions and costs in Japan: A nationwide claims database study

著者:Hideaki Miyachi, Daisuke Sato, Kentaro Sakamaki, Yaei Togawa, Kensuke Yoshimura

雑誌名:The Journal of Dermatology

リンク:https://doi.org/10.1111/1346-8138.17393

PDFリンク:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/1346-8138.17393

 

参考文献

【1】日本皮膚科学会ホームページ,皮膚科Q&A 爪の病気 Q5,2024年8月9日アクセス
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa38/q05.html

【2】皮膚真菌症診療ガイドライン2019, 日皮会誌:129,2639-2673, 2019
(一般公開:https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/shinkin_GL2019.pdf