活動報告

第1回 対談 @東京医科歯科大学

2019.11.12

今回、東京都で地域医療構想に取り組まれている東京医科歯科大学に訪問し、大学院医歯学総合研究科 東京都地域医療政策学講座の山内和志特任教授と意見交換をさせていただきました。
山内先生は、もともと厚生労働省にいらっしゃいました。厚生労働省の医系技官を経て、地域医療構想に取り組むという点で、吉村センター長と似た位置づけということになります。
千葉県に隣接する東京都では、地域医療構想の実現に向けて、どのようなことに取り組み、どのような課題に直面をしているか、ざっくばらんに意見交換をして参りました。


左から、成瀨浩史、吉村健佑、山内和志、森脇睦子(敬称略)

吉村:貴重なお時間を頂戴しありがとうございます。
山内:次世代医療構想センターは、地域医療構想の仕事をすることになるのだと思いますが、県からは具体的な指示はあるのでしょうか?
吉村:9つの二次医療圏に分かれていますが、他の都道府県も進捗にばらつきがありますよね。三師調査の医師の調査、病床数、DPCのデータ、レセプトデータを取り寄せるなどの情報収集をして有用なデータセットを作ろうと考えています。定量データだけでは、地域医療構想を進めるのは難しいと思っています。各医療機関にヒアリングに回って、お困りなどについて定性データを集めます。後者も重要ではないかと思っています
山内:ということは、個別に病院を回っているのですか?
吉村:現在、ヒアリングの準備を進めております。千葉県内288の病院がありますが50~100程度の病院に回りたいと思っております。特に、小児・産婦・救急の3診療科に特化してヒアリングの準備をしています。小児・産婦・救急は政策医療分野です。


千葉大学病院 次世代医療構想センター
センター長/特任教授 吉村健佑

山内:次世代医療構想センターで行う診療科別の検討会は地域医療構想の調整会議とは異なるのでしょうか?

吉村:地域医療構想の調整会議とは別です。調整会議は地域医療連携部という部署が行っています。診療科毎に課題が異なりますので、診療科ごとに検討が必要であると考えています。病院の集約化というよりは、医師を確保して、医師の適切な配置をしていきたいと思います。その過程で、医療機関の役割もおのずと明確になってくるのではないでしょうか。

山内:今後、地域医療構想を進めていくうえで、今の立場でうまく進みそうですか? 今の立場は、アカデミアの観点からの提案をするのでしょうか?

吉村:これは研究活動という位置づけです。県と大学の間で、調整をしながら、最適な方法を探索していくことになります。
山内:定性データが重要ですね。定量データだけではなく、現場でどういう役割を果たしているのかを聞かないとわからないですね。千葉大学のセンターが、それを重視しているのが良いですよね。


東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 東京地域医療政策学講座
特任教授 山内和志

吉村:二次医療圏で完結させることは診療科によって再考する必要がありますね。
例えば、山武長生夷隅は、NICUが一床もないし、新生児科医が一人もいない状況です。新生児科は他に任せるなど、一つ一つ方針を明確にして、産科はどうするかなど、二次医療圏にとらわれず、実態を動かしてみて、守備範囲を決めていくにも必要なのだと思います。
今後、診療科別の二次医療圏マップができて、受診動向マップもできて、それに基づいて整理を進めるというものを提案したいと思います。
山内:なるほど。そうですね。

山内:各医局と連携するために何をやっていますか?

吉村:各診療科(小児・産婦・救急)の医師を、当センターの特任助教として参加してもらい、密に連携できるような仕組みにしております。当センターは、各診療科の人材確保のためのパンフレット作りなどのお手伝いもしています。

吉村:医師会とは連携をしていますか?

山内:我々も東京都医師会となるべく密に連絡を取るようにしたいと思っています。医師会の意見を聞きながら進めていきたいと思います。
日本全国では人口減少と言われていますが、東京都では人口が増えています。人口増加は一見よいように見えますが、医療の面では、医師は引き続き必要だということになります。将来像について楽観視をしていません。高齢化が進み、高齢者が集中する地域になるという予測があります。
吉村:千葉県も同様の傾向があります。房総半島から東京側に人口が移動しています。東京は流入が多いと思います。千葉県は、東京寄りの二次医療圏(千葉、東葛南部、東葛北部)の人口は約410万人です。この二次医療圏の面積は千葉県全体の面積の17%しか占めていません。一方、それ以外の地域83%の面積に、約220万の人々が住んでいることになります。せっかく人口のピークに備えても、また、人口が減ってしまい、施設や制度が状況に合わなくなってしまうこともあると思います。
山内:どのように備えるかがポイントですね。
吉村:西東京はいかがですか?
山内:西東京の方は、人口減少は少し早く始まると言われています。例えば、奥多摩は、今後速いスピードでの人口減少が予測されています。ここも千葉と同様に都心の方に移動してきて、最終的には、利便性の高い鉄道幹線沿いに集まってくるのではないかと思います。一人で生活するのは段々難しくなってくると思います。なかなか幅広く医療サービスを提供するのは難しくなりますね。


東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 東京地域医療政策学講座
特任准教授 森脇睦子

吉村:他大学との連携はいかがですか?

山内:一橋大学・医科歯科大学で、7人です。両方とも都からの寄附講座です。一橋は、経済の立場です。時々も打合せをやっています。
吉村:兄弟講座みたいなものですね。
山内:もともと、四大構想というものがあり、東京医科歯科、一ツ橋、東工大、外大が関わっています。
吉村:千葉県はアドバイザーを置いておりません。地域医療連携部があり、そちらの教員が現場の状況を把握してくれています。

山内:パンフレットもきちんと作られていますね。
https://chiba-u-nextg.sakura.ne.jp/pamphlet-1st_190917/
成瀨:そう言っていただけて、パンフレット作った甲斐があります。
山内:看板はありますが、私たちもパンフレットを作りますか。
吉村:私たちは、看板はまだなんですよ(笑)

吉村:今後何かのコラボレーションできる機会があるとよいかと思いますがいかがでしょうか?

森脇:地域医療アドバイザーのポストでアカデミアは、東北大学、神戸大学、東京医科歯科大学、一ツ橋大学、山形大学、京都大学が知られています。
吉村:「大学×地域医療構想」のようなテーマでどうでしょうか?
山内:そもそも、地域医療構想の取り組みとして、皆さんがどのようにアプローチしているか知りたいですね。この分野は、意外とアカデミアポジション少ないですが、論文につながる重要な仕事をされていますね。
吉村:研究として進められるのは大切ですね。

山内:医師確保のために千葉県では、どういう手段がとられていますか?
吉村:県の立場で医師確保計画を作っています。当センターからは、それを補完するために、データをそろえて、需要と供給の量を明確にして、各医療機関に必要な人材を明確にしていくことになります。
山内:政策にどのようにつなげていくかですね。
森脇:医師確保のガイドラインが3年おきに見直されますので、成果が反映されるといいですね。

吉村:全体として診療科に増えてくれたらいいねという言い方になると思います。臨床などで忙しいのでプロモーションなどなかなかできないので、パンフレット・WEBサイトなど千葉大内でも提供していきたいと思っています。
人材をうまく集めている診療科があるので、そこにヒアリングに行ってヒントを得たいと思っています。
森脇:大学病院が少ないからやりやすいですしね。各診療科とコンタクトを取ることになりますね。
吉村:人の動きを見えるようにする、人の流れを見えるようにするのが大事ですね。
救急には約100人、小児科には約600人、産婦人科には約500人、1200名程度が対象となりますが、かなり地道な作業が必要になります。
山内:ローテーションなのか、行きっぱなしなのか、異動のパターンも重要ですね。全体でみると医師の人数は変わらないが、入れ替わっている場合が多いと思います。
吉村:各医局と連携すると、どれくらい医師の流動性があるかがわかると思います。

成瀨:設立後、東京で取り組む中で、直面している問題はありますか?

山内:東京都の方針をよくくみ取ることが大事であると思っています。
医師が足りてない地域や分野があるはずですが、今すぐに、医師を配置しないといけないかというと、別の話になります。全体として、医療需要と医師の配置のバランスをとっていくうえで、確保計画が大事です。
吉村:それは重要ですね。
山内:例えば、東京都の大学の病院が供給できないという状況になったら、東京でも、影響が大きいのではないかと思います。ただし、その影響を実証するのは難しいですね。
高齢化と人口集中を踏まえると、総合診療医の育成は重要で、地域医療に貢献して頂けるように考えないといけないと思っています。それぞれの領域で専門医が診るよりも、総合診療医が診た方が効率的ではないでしょうか。今後は高齢者への対応に重きを置いて考えていくと、。今後病院の役割も重要になると思います。在宅も段々難しくなってくると思います。
吉村:総合診療はすごく大事ですね。
山内:東京はこのままやっていけるか、難しいところに来ていると思います。。
吉村:千葉にはいくつかの成功事例があります。
山内:都市型の総合診療についても検討してもいいかもしれませんね。
吉村:在宅は報酬の面で手厚くなっています。人口で在宅が必要かと思うことは考える必要があります。

成瀨:今後、住民との合意形成が必要になることを想定して計画は立てていますか?

山内:基準に当てはめるだけではダメで、現場で話を聞くことが大事だと思います。医療機関が地域でどのような役割をしているかを聞いて、どういう機能をしていて、何を残して、何を強化するかを議論する必要があるのではないでしょうか。

吉村:本日はご挨拶ということで伺いましたが、お忙しい中お時間を頂戴しましてありがとうございました。同じミッションを持っているというのは心強いです。
山内:苦労することが多々ありますが、共有できてうれしいです。
山内・吉村:今後もよろしくお願いします。

<次世代医療構想センターWEBサイト>
https://www.ho.chiba-u.ac.jp/NextGeneration/
<次世代医療構想センターfacebook>
https://www.facebook.com/NEXTGENERATION19/